【登場人物】
- コーチ: プロのサッカー言語化コーチ。1cmの精度、0.5秒の判断にこだわり、プレーの「なぜ?」を小学生にも分かりやすく解説する。
- リョウタくん: サッカーが大好きな小学5年生。FWとして試合で活躍したいけど、悩みも多い。
「惜しい!」で終わらせない。FWの仕事はゴールだけじゃない!
リョウタくん:
「コーチ、こんにちは!この前の試合、僕、FWで出たんですけど…」
コーチ:
「お、リョウタくん、こんにちは!試合どうだったかな?」
リョウタくん:
「それが…。ゴールキーパーからの長いボールを、僕が前で受けようとしたんですけど、相手のDFに体をぶつけられて、すぐボールを取られちゃったんです。それでカウンターを受けて、ピンチになっちゃって…。監督にも『しっかり収めろ!』って言われました…。」
コーチ:
「そうか、悔しい思いをしたんだね。ボールを取られた時、『あー、惜しかったな』って思ったかな?」
リョウタくん:
「はい…。あとちょっとでうまくトラップできそうだったのに…って。」
コーチ:
「うんうん、その気持ち、すごくよく分かるよ。でもね、コーチは少し違う考え方をしているんだ。実はそれ、『惜しかった』んじゃなくて、相手のDFにとっては『狙い通り』だったのかもしれない。」
リョウタくん:
「えっ、狙い通り…?」
コーチ:
「そう。例えば、リョウタくんがボールに触るのが0.5秒遅れたとする。それは見ている人からすると『惜しい!』だよね。でも、相手のDFからすれば、その0.5秒を完璧に狙って体をぶつけてきてる。つまり、DFにとっては『完璧な守備』で、全然『惜しくない』んだ。この『惜しい』と『完璧』の差を埋めていくのが、サッカーがうまくなるってことなんだよ。」
リョウタくん:
「そ、そっか…。僕が『惜しい』って思ってる間に、相手は『よしっ!』って思ってたのかも…。」
コーチ:
「その通り!でも大丈夫。今日、リョウタくんがその差を埋めるための、めちゃくちゃ大事な話をしよう。今日のテーマは、『FWがゴールキックのボールを確実に収めて、チームの攻撃のスイッチを入れる方法』だ。これができるようになれば、監督や仲間から『リョウタに預ければ大丈夫!』って、絶大な信頼を寄せられる選手になれる。聞きたいかい?」
リョウタくん:
「はい!聞きたいです!」
なぜ、無理に前を向こうとするとボールを失うのか?
コーチ:
「リョウタくんは、ボールを受けた時、すぐにゴールの方を向きたくならないかい?」
リョウタくん:
「なります!だって、早くゴールを向いてドリブルしたり、シュートしたりしたいから!」
コーチ:
「素晴らしい!その気持ちがFWには一番大事だ。でもね、ちょっと考えてみよう。ゴールキーパーからのボールって、どこで受けることが多いかな?」
リョウタくん:
「えーっと、センターラインのちょっと手前とか…真ん中あたりです。」
コーチ:
「そうだね。そして、リョウタくんの後ろには、誰がいる?」
リョウタくん:
「相手のディフェンダーが、僕のことを見てます。」
コーチ:
「その通り!つまり、リョウタくんがボールを受けようとするとき、相手DFはリョウタくんとボールを両方見ながら、『絶対に前を向かせないぞ!』って、ものすごい集中力で狙っているんだ。」
【無理に前を向くことの危険性】
- ボールを失う確率がすごく高い!後ろからDFに体をぶつけられながら無理にターンしようとすると、足からボールが離れてしまう。そのボールを拾われると、一気に相手のチャンスになるんだ。
- チーム全体がピンチになる!FWがボールを失うと、味方の選手たちは攻撃しようと前に向かっているよね。その背後を突かれて、一気にカウンター攻撃を受けてしまう。たった一つのプレーで、チーム全体を危険にさらしてしまうこともあるんだ。
コーチ:
「ボールを失うっていうのはね、サッカーではものすごく大きなマイナスなんだ。例えば、FWが高い位置でボールを失うと、チーム全員が自分のゴールまで50メートルも60メートルも走って戻らないといけなくなる。時間にして10秒以上かな。たった一つのプレーのために、チームメイト10人を10秒間も全力疾走させることになる。そう考えると、ボールを大切にしたくならないかい?」
リョウタくん:
「うわ…そんなふうに考えたことなかったです。僕一人のプレーじゃないんですね。」
コーチ:
「そうなんだよ。だからこそ、プロの世界では『ボールを収められるFW』がものすごく評価される。ゴールを決めるのと同じくらい、いや、それ以上に大事な仕事なんだ。じゃあ、どうすればボールを確実に収められるようになるか。今日のたった一つのポイントを教えるよ。」
【今日のポイント】ボールを『止める』な!『置け』!
リョウタくん:
「え?ボールを止めるなって、どういうことですか?トラップしないんですか?」
コーチ:
「いい質問だね(笑)。もちろんトラップはするよ。でも、感覚を変えるんだ。ボールが来たところにただ足を出す『止める』トラップじゃない。『自分が一番プレーしやすい場所に、そっとボールを置いてあげる』という感覚を持つんだ。」
リョウタくん:
「ボールを…置く…?」
コーチ:
「そう。そして、そのために超重要なのが『体の向き』なんだ。相手DFに背中をベッタリとくっつけて待つんじゃなくて、『半身(はんみ)』で構えるんだ。」
リョウタくん:
「はんみ?」
コーチ:
「ゴールに対して真横を向くようなイメージだね。相手DFに対して、自分の体の半分を見せる感じ。こうすることで、3つの良いことが起きるんだ。」
【半身で構える3つのメリット】
- 見える世界が広がる!背中を向けていると、ボールしか見えないよね。でも半身なら、飛んでくるボール、すぐ後ろにいる相手DF、そしてパスを出したい味方、この3つを同時に視野に入れることができるんだ。情報量が一気に増えるから、次のプレーを考える余裕が生まれる。
- プレーの選択肢が増える!ボールを受けた時、前にターンするのか、近くの味方にパスを落とすのか、瞬時に選べるようになる。相手DFは「どっちに来るんだ?」と迷うから、プレッシャーもかけにくくなるんだよ。
- ボールを安全な場所に『置ける』!これが一番大事。半身で構えていると、相手が自分の右側から来ているのか、左側から来ているのかを感じられる。だから、ボールが来た瞬間に、『相手がいない、安全なスペース』にボールをそっとコントロールして置くことができるんだ。
コーチ:
「例えば、相手DFが自分の背中の右側にいるのを感じたら、ボールが来た瞬間に、体の左側に10cmだけボールをずらして置いてあげる。たった10cmだよ。でも、その10cmの差で、相手は絶対にボールに触れないんだ。これが、コーチがいつも言っている『1cmの精度』だよ。ボールを『止める』んじゃなくて、安全な場所に『置いてあげる』。この感覚、イメージできるかな?」
リョウタくん:
「はい!なんとなく…。相手から遠いところにボールをコントロールする感じですね!」
コーチ:
「その通り!素晴らしい!まずは無理に前を向こうとしない。半身で構えて、ボールと相手と味方を見て、安全な場所にボールをそっと置いてあげる。そして、近くの味方に優しくパスを出す。たったこれだけでいい。これを10回やって、10回成功させる選手が、本当に信頼されるFWなんだよ。」
「そらす」プレーは、宝くじと同じ?
リョウタくん:
「でもコーチ、ボールを触らないで後ろにそらして、味方が走り込んでゴール!みたいなプレーも見たことあります!」
コーチ:
「よく見てるね!あれはすごくカッコいいし、決まれば最高のプレーだ。でもね、あれは『狙って』やっているから成功するんだ。」
コーチ:
「あのプレーが成功するには、いくつかの条件がある。
- 味方の選手が、ボールが来る前から裏のスペースに走り出しているのが見えていること。
- 相手DFの裏に、広いスペースがあること。
- キーパーからのボールの軌道が完璧なこと。これらの条件がそろった時に、初めて狙う価値のあるプレーになる。何も考えずに『えいっ!』てそらすのは、コーチから言わせれば、宝くじを買うようなものなんだ。」
リョウタくん:
「たからくじ…。」
コーチ:
「そう。当たるかもしれないけど、ほとんどは外れてしまう。そして外れたら、ボールは相手のものだ。僕たちが目指すのは、宝くじを当てることじゃない。毎回、確実に当たりを出せる選手になることだ。だから、まずは10回中10回、確実にボールを収めて味方につなぐ。その『当たり前』のレベルを、誰よりも高くすることが大事なんだ。その先に、スーパープレーが待っているんだよ。」
【今日からできる!】最強ポストプレー練習
リョウタくん:
「コーチ!僕もボールを『置ける』ようになりたいです!どんな練習をすればいいですか?」
コーチ:
「よし、その意気だ!一人でできる練習と、お父さんやお母さんとできる練習を教えるね。」
練習①:1人でできる!『壁当て・半身コントロール』
- 壁を見つける: 公園や家の壁でOK。
- 壁に向かってパス: 少し強めのパスを壁に出す。
- 半身で構える: 壁から跳ね返ってくるボールに対して、必ず半身で待つ!
- ボールを『置く』:
- 跳ね返ってきたボールを、自分の右足の少し斜め前に、そっとコントロールして『置く』。
- 次は、左足の少し斜め前に『置く』。
- 繰り返す: 右、左、と交互に、ボールを置く場所を変えながら20回やってみよう。
【コーチからのワンポイントアドバイス】
「ただやるんじゃなくて、イメージすることがすごく大事だぞ!『今、壁が相手DFだ。DFが右足を出してきたから、僕は左側にボールを置こう』みたいに、頭の中で試合の場面を想像しながらやってみてくれ。ボールを置く位置が1cm違うだけで、次のプレーのしやすさが全然変わってくる。その感覚を体に覚えさせるんだ!」
練習②:親子でできる!『プレッシャー体感・ポストプレー』
- 向かい合って立つ: お父さんかお母さんに、パスを出してもらう。
- 後ろからプレッシャー: パスが出るのと同時に、お父さん(お母さん)は君の後ろから、軽く手で背中を押したりして、DFのプレッシャーを再現してあげる。
- 半身で受ける: 君はプレッシャーを感じながら、半身でボールを受ける。
- 安全な場所に『置く』: 相手のプレッシャーがない方にボールをコントロールして『置き』、パスをくれたお父さん(お母さん)に優しく返す。
【コーチからのワンポイントアドバイス】
「これは、相手がどこにいるのかを『肌で感じる』練習だ。最初はボールをうまくコントロールできなくても全然OK。大事なのは、後ろから来るプレッシャーに対して、慌てずにボールを隠す場所、安全な場所はどこかな?って探すこと。これを繰り返すと、試合中に相手がどこにいるのか、見なくても分かるようになってくるぞ!」
まとめ:信頼は、確実なプレーの積み重ね
コーチ:
「リョウタくん、今日はよく頑張ったね。最後に大事なことをまとめるよ。」
【FWがボールを失わないための3つの約束】
- 無理に前を向かない!まずは確実に『収める』ことを最優先に。
- 構えるときは必ず『半身』!ボール・相手・味方を全部見る。
- ボールは『止める』な!相手から一番遠い場所にそっと『置け』!
コーチ:
「今日からこの3つを意識して練習するだけで、リョウタくんのプレーは劇的に変わるはずだ。ゴールを決める派手なプレーももちろん素晴らしい。でも、チームのために体を張って、確実にボールを味方につなぐ。そういうプレーができる選手を、監督もチームメイトも一番信頼するんだ。」
リョウタくん:
「はい!僕、もう『惜しかった』で終わらせません!確実にボールを収めて、チームに信頼されるFWになります!」
コーチ:
「その意気だ!0.5秒の判断、1cmのコントロール。その小さなこだわりの積み重ねが、未来のスーパープレーヤーを作るんだ。応援してるぞ、リョウタくん!」
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